「━━━━━卵黄を口に入れたままキスをして、

割れないよう口移しで何回リレーできるか・・・っていうの、知ってる?」



何度目かのキスの後、至近距離のままミレイユは甘く囁いた。

同じく至近距離でぷるぷると首を振って、真面目な顔で答える霧香。

「・・・卵黄だけじゃあんまり美味しくないと思う」

「いやいやそういう事じゃなくて!・・・あんたってつくづくムードないのね・・・」

露骨に『聞いたあたしが馬鹿だったわー』的な表情のミレイユ。

キスはともかく、卵の「黄身」と「ムード」が霧香の頭の中ではどうにも結びつかない。

聞いてみたかったけれど、言ったら更に呆れられてしまいそうなのでその疑問は胸の中に留めておいた。

「・・・まぁ、言われてみれば確かに卵黄じゃ美味しくないかもね・・・」

そう言ってミレイユはきょろきょろと辺りを見ている。

ややして、視線が机の上で止まった。

「・・・そうだ、これはどう?甘くて美味しいわよ」

そう言ってミレイユが軽く振ってみせたのは、先程霧香がミレイユに渡したチョコレートの箱。

「えーと・・・チョコをどうするの?」

「あんた人の話聞いてたの!?」

「・・・卵とムードでしょ?」

「微妙に違う話になってるじゃないの!・・・・・・・・もういいわ。あんたには説明するより実際にした方が早い」

頭にクエスチョンマークが3つ程浮かんだままの霧香を横目に、手際よく包みを開ける。

少し大きめな飴玉サイズのチョコレートを取り出すと、整った指先でぽん、と口に含んだ。

「・・・うん、おいし」

口の中で暫くチョコレートを転がす。

そして、誰もが魅了されそうな、文字通り極上の笑みを霧香に向けた。

口に含んだチョコレートと、ミレイユのその意味ありげな微笑みに漸く話の合点がいった霧香。

経験上よく知っている。

ミレイユが自分にこういう表情を浮かべる時は、決まって

あんなことにこんなこと、そんなことやどんなこと、と

色々よからぬ事を考えているにちがいないのだ。

「ち、ちょっと待ってミレイユ。チョコは口の中じゃ溶けちゃうし・・・」

「そりゃそうね。でも溶けきるまでに何回交換できるか試してみない?」

「それに食べ物で遊んだらいけないって昔のひとが」

じたばたしようとする霧香をしっかり押さえるミレイユ。

「遊ぶんじゃありませーん。いっしょに食べるだけです」

「それならもっと普通に食べ・・・・・・んっ」

顔が近づいた、と思う間もなく口付けられた。

「ミレ・・・ん・・・っ」

僅かに開いた唇から、ミレイユの舌が滑り込む。

「んんっ・・・ぁ・・・」

微かにざらついた触感とチョコレートの甘さが混じり合って、霧香の体の力が抜けてゆく。

ブランデーもリキュールも入っていないごく普通のチョコレートだった筈なのに、頭の芯がくらくらする。

体の強張りが消えた事に満足して、ミレイユは霧香の唇を開放した。

気が付くと、口の中にはチョコレートがひとつ。

乱れた呼吸を続ける霧香の耳元で、ミレイユが囁く。

「今度は・・・霧香の番よ?」

その声に、ゆるゆると顔を上げる。

「・・・ね、次はあんたがあたしに食べさせて頂戴・・・」

霧香の中に、ミレイユの声が浸透していく。

依然頭の芯はまだ痺れたままだったが、自然と体が動いた。

「ミレイユ・・・・・・」

腕を伸ばしてミレイユの頬に両手で触れると、そのままゆっくり唇を重ねた。

「・・・っ、ふっ・・・・・・あ、ん・・・」

2人の口の中で少しずつ小さくなるチョコレート。

甘くて、甘くて・・・たまらなく、熱い。





そうやって何度口付けたかわからなくなった頃、

漸く口の中のチョコレートは完全に形を無くした。

「・・・・・・・・・・っ、」

チョコレートは無くなったが、

霧香の中の熱は消える気配が無い。むしろ、前よりも熱くて我慢出来無い程だ。

どうしていいかわからない霧香に、ミレイユがやさしく問う。

「ねえ霧香・・・・・・もっと食べたい?」

聞かなくても返事は判っているの筈なのに。

「・・・・・・・・・・・・」



チョコレートが全部溶けるのが先か。

それとも私の方が先に溶けてしまうのか。




もうミレイユの事以外何も考えられない頭で、霧香はこくりと頷いた。










ネタ的に、絵よりも文字でやった方が良い気がしたので・・・って、
それにしても何故こんなに前半と後半でガラリと違うんだ!おかしいですよカテジナさん!!

お笑い方向にのみ特化しているカツラ屋ですが(←自業自得)
今回は徹底的に甘く!胃もたれするようなラブをやるんだー!と
無駄に意気込みすぎてこんなしょっぱい事に・・・嗚呼恥かき人生。


(追記)

冒頭に出てくる「卵黄を口に入れたままキスをして、口移しでリレー」云々というのは
私が子供の頃、テレビ(映画の再放送)で見たような記憶があるのです。

確か白黒の洋画だったよなーと思いながら、ネットで捜してみたら
どうやら邦画だったようで・・・しかも伊丹十三作品。

ま、マルサ?それともミンボー!?Σ(゚Д゚;)と一瞬
仰け反りながらも、よくよく読んでみると「たんぽぽ」という作品中、

役所広司と黒田福美のキスシーンにそうい描写があったそうです。

子供の私には役所広司と黒田福美は外人さんに見えていたのか・・・っ(トホホ)






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